ヒカルちゃん

私は幼稚園の年長さんの途中で隣町に引っ越した。

 それまで通っていた幼稚園はそのまま通うことになり、朝は父の車で登園。

帰りは幼稚園前から市営バスに乗せてもらい隣町の駅前で待っている母と合流。

それが卒園まで続いた。

 

小学校は近くの市立小学校に入学した。

 引っ越してまだ日も浅く、入学時に友達は1人もいなかった。

それでも物怖じしない性格だったので、すぐに学校にも慣れ毎日元気に通っていた。

 

同じクラスにヒカルちゃんという女の子がいた。入学して初めて出会った子だ。

ヒカルちゃんはなぜか私に敵意を持っていたようだ。

理由はわからないがいつも私に突っかかってきた。

引っかいたり噛みついたりしてくる”サルみたいな子”だった。

当然私もヒカルちゃんを嫌うようになり、事ある毎に喧嘩していた。

 

「あんな子いなくなっちゃえばいいのに」

喧嘩をする度にそう思っていた。

 

仲直りすることもなく、3年生になった。

クラス替えで別のクラスになってからは特に意識することもなくなった。

学校で見かけることはあったが、話をすることもなかった。

 

その夏休みの事だった。

ヒカルちゃんは突然亡くなってしまった。

 

車で行った家族旅行で事故にあい、家族4人いっぺんに亡くなったそうだ。

子どもながらショックを受けた事を憶えている。

 

住人のいなくなったヒカルちゃんの家は、数年間そのまま放置されていた。

誰もいないのに夜灯りがつくとか、ピアノの音が聞こえてくるとか・・怪奇現象の噂まで出てくる始末だった。

友達に誘われても、私はヒカルちゃんの家には決して近づかなかった。

 

「あんな子いなくなっちゃえばいいのに」

 

そう思っていた自分が怖くなったのだ。

ヒカルちゃんは本当にいなくなってしまった。悲しいというより、ただ怖かった。

「ヒカルちゃんごめんね」

心の中で謝ってみても、ヒカルちゃんにはもう届かないことはわかっていた。

二度と会えなくなるという事を知った夏だった。

 

それからは、むやみに人を嫌わないようにと気を付けた。

それは今も続いている

 

それでも嫌な人は必ず現れる。

そんな人と出会った時、苛立ちや怒りを覚えることもある。

大人になったってそれは変わらない。

 

全然成長してないな、と思いつつ。

人間なんだから仕方ないと開き直っている。

 

それでも私は

「いなくなっちゃえばいい」とは思わないようにする。

無意識に思ってしまうことをコントロールするのは簡単ではない。

あれから何十年とたった今でさえ・・

 

今でもわからないことがある。

あの頃は深く考えなかったが、私は何故ヒカルちゃんに嫌われたんだろう・・

私が憶えていないだけで何かしたのだろうか。 

 

ヒカルちゃんのことを思い出す度に考える。